ちょうどこの時期、首都圏を出てひたすら西へ向かい3日連続できれいな夕日を眺めながら走った旅の記憶がある。
1日目は伊良湖岬へ向かう道、2日目は和歌山の日の岬へ向かう道で、3日目は室戸岬で。
慌しい日々の生活の中で、こんなにゆっくりと夕日を見届けたことなどなかったのに。
それが天候にも恵まれて3日連続で夕日に向かって走るような経験ができたのだ。
ある精神科医はリフレッシュ効果を得るには、日常の生活圏から100Km以上離れることが必要と言っていたが
そのとき優に500Km以上も遠ざかり、毎日自然の美しさに触れて過ごしていた旅の時間が、今でも心に深く刻み込まれている。
Column
立春を過ぎた2月11日は、毎年どこかへ走りに行っていた。
春を告げるせっかちな暦につられて、その春を感じたくて走りに行くのである。
ところが峠道ではまだ路肩に雪が残っている光景をよく目にしたし、ある時には北側斜面で溶けない雪がアイスバーンと化しており、坂道ゆえどうしょうもなくコケたこともしばしば。
それでも山を降りて海辺まで出ると、強くなってきた陽射しにホッとする暖かさも感じられて。
確かに北向きの僕の部屋にも、西日の断片が射し込むようになってきたから。
雨の日のワインディングロード沿い、次々と流れてゆくガードレールの光を眺めながら走った時のことを今でも鮮明に覚えている。
晴れていればとてもいい眺めの場所であろうが、霧が立ち込めて周囲の景色は全く見えない。絶え間ない雨と、どんよりと薄暗い景色の中でただヘッドライトに照らされたポールの上の反射器材だけが明るく輝いていたのである。
そんな心細い状況の中で、それでも愛機のエンジン音は軽やかに心地よく響いている。
これほど心強い事があろうか。
打ち付ける雨にも辛抱してただアクセルを保っていれば、やがて目的地に着く。
そんな信頼感はそのとき何ものにも替え難い。
そう。一旦旅を始めたら、出発前の確実なメンテナンスの重要性をいつも思い知らされるのである。
V100Labo所有機は、電人ザボーガーかナイト2000か。
ツーリング中はマシンと対話する時間でもある。エンジン音、振動、加速感などに神経を研ぎ澄ませ集中する。
そうすると整備の結果に大満足できたり、ときにはハラハラさせられたり。
もっと聞きたいとの執念から、回転計、電圧計、気温計、変速比計、2系統のトリップメーターなどを搭載したが、
そのツーリングモニタの起動メッセージも「Hello Master!!…」となっている。
まるで機械に人間味を求めているかのように。
また新たに固定装備したGPSレー探がいろいろ言ってよこすが、これは頼れる存在。オービスならば恐るるに足りない。
更にGarminのナビとGPSロガーをフル装備するツーリングモードでは、かなりの情報量となるわけだ。
それらのリモート操作系はハンドル左グリップの根元に集中。左手の人差し指でカメラのシャッターを切り、親指の第一関節でツーリングモニタのモードを切り替える。
それを扱う人間はというと、最初のうちは頭が混乱して、いきなりホーンを鳴らしてしまったり、意味もなくカメラのシャッターを切ったりしたこともあったが、今では無意識のうちに使いこなし、情報を頭の中で整理できるようになっている。
それだけ、人間の脳の処理能力は並外れたものなのだなあ、とその造りに感心してしまうのである。