クランク左、プーリー側のねじ山が逝っちゃった!
という経験をされた人は少なくないのではないでしょうか。
以前にヤフオクで、ここのナットとクランクシャフトを溶接で止めて応急処置している、二度と分解できないエンジンが出品されていたのを見たことがあります。この逆ねじの部分はとてもデリケートだと思います。
所有機も、この部分をしっかり締めたはずなのに、少し走行するとすぐに緩むようになってきておかしいなあ、と思いつつさらに締め直してみたところ、ズルッときて「あ゛…」、で終了です。この一瞬にしてV100は全く運用できなくなりました。
こうした場合、正攻法の修理はクランク交換か、中古のE/G載せ替えということになりますが、時間もお金もかけられなかったので、ダイスを買ってきて自分でねじ山を立ててみることにしました。これをやれば当然ながら、ねじ山は正ねじになります。
まず、M10x1.5のダイスを用意するのですが、最初はホームセンターで格安に売られているタップダイスセットを買ってきて取り掛かったものの、ダイス径が小さかったこともあり、大きな力に耐えられず工具の方が壊れてしまいました。
そのため38径の本格的なダイスとハンドルを買ってきて、気を引き締めて再びトライします。
切削油についても、CRCとかスプレーグリスなど色々試しながら作業してみましたが、結局専用の切削油が一番すべりが良くて作業効率が良かったです。
ダイスは山を立てようとするシャフトに対して正確に直角に当てて少しだけ切っては戻し、切削油を付けながら回しては戻し、という動作を繰り返して、ちょっとづつ地道に切って行くのですが、まず作業を始めてみると、最初の取っ掛かりが難しいことを思い知らされました。
少しでも食いつきやすくするために、やすりで角を落としてみたのですが、面取り程度の削りでは、まるで歯が立ちません。
そこでシャフトの少し奥の方からテーパーに仕上げるような感じで、削ることにします。
この時均等に削るために、禁断の裏ワザですが、セルギアだけ仮付けしてエンジンを始動して削ってみました。回転中セルギアがガタつくのは無理もないことですが、飛び出してきて外れてしまうと手裏剣状態になってしまうので、固定方法や作業には気を遣いました。(決してまねをしないで下さい)
確かにこれが効いてテーパー加工ができたので、細くなった部分からダイスは楽に食いついてくれて山を切り始めることができました。
今考えて見ると、最初はM12x1.5のダイスで始めて、徐々に径を小さく(谷を深く切削するように)して→M11x1.5→M10x1.5という具合にダイスを変えてゆけばもう少し楽だったのではないかと思います。
クランクシャフトの反対側では、空冷フィンを取り外し、ロータとクランクケースのねじ穴を利用しステーで固定し、クランクが回らないようにしてあります。
とにかく、クランクの材質はかなり固いものなので、なかなか作業が進まないです。しまいにはダイスが割れてしまうし、ハンドルも固定ビスがへばってきて、まるでクランクの材質に負けている感じです。
ダイスは2個目を投入してようやくある程度の山を立てることができました。それでも計画よりも浅い位置のためこのままではナットひとつでフェイスを固定することはできません。
そこで純正のナットをスペーサー代わりにかまし(クランク側はズルズルですから)ワッシャと、更にスプリングワッシャを入れてM10のナットで留めることにします。
後日、この写真の時よりも更に作業を進めたので、もう少しワッシャの枚数を減らすことが出来ています。確かに気力の要る作業ではありましたが、それでもこれで再び運用できるようになりました。
その後も全く問題なく運用していました!
駆動系のメンテナンスで何度も開け閉めしているのですが、ねじ山に起因するトラブルは全く発生しなかったです。
最終的には引退までの間、この修正クランクで約77,000Kmまで走行してた実績があります。
但し始動がセルオンリー仕様になってしまうのは仕方のないところですが。セルモーターのメンテとバッテリーの管理さえしっかり行なっておけば、全く問題はありません。
あえて取り上げれば、始動で困ったのは塩害でエンジンアースが接触不良になった時と、スライドピースのかけらがスターターギアに噛み込んだ事例の2回だけでした。
(ケース内を掃除していなかったのがいけなかった)